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飛行機のオーバーブッキングはなぜ起こる?航空会社スタッフの目線でその理由を徹底解説

空港の仕事

空港のチェックインカウンターや搭乗口で、「この便はオーバーブッキングしています。振り替え便に乗っていただける方を探しています」と言われたことはありますか?実際に遭遇すると、ちょっとびっくりしますよね!

スタッフとして接客していると、「オーバーブッキングしてるの?大丈夫なの?」とご心配いただいくこともありました。お客様としては、ちゃんと予約を管理できていないのでは、と心配になっちゃいますよね。

これはあまり知られていないのですが、実はオーバーブッキング(またはオーバーセールス)は、国際的に正当な手法として認められているのです。今回は、航空業界で長年働いていた筆者が、オーバーブッキングが起きる理由、空港の現場での処理のしかた、そして自分がどうしても予約便に乗りたい時に取るべき対策について解説します。

これを読めば、なぜ航空会社がオーバーブッキングをするのか?その理由と、自分が搭乗拒否の対象にならないための方法が分かっちゃいます!

なぜオーバーブッキングが起きるのか?

オーバーブッキングが起きる背景は、大きく分けて、2パターンあります。

  1. 単純に、座席数以上に予約を取った場合
  2. 運航機材(飛行機)や乗員のスケジュール変更によって、販売できる座席数が減り、結果的にオーバーブックになる場合

一つずつ解説しますので、見ていきましょう!

原因①No-showを見込んで座席数以上に予約を取った

予約センターでは、使用する機材の座席数以上に予約を受け付ける場合があります。(※この場合、機材とは飛行機のことを指します。)

例えば、座席数100に対し、105名の予約を入れてしまう場合。これは、路線特性にもよりますが、「No-show」といって、予約を持っていても実際にチェックインしないお客様が、一定の割合で存在するからです。

特にアジア路線(中国、韓国、台湾など)でのNo-showの多さは顕著。10名ぐらいのNo-showはどの便でも普通に見られます。一方、ヨーロッパ行きなどは比較的少なく、特に日本人が多いリゾート路線はゼロということも珍しくありません。(会社によりますが)

航空会社としては、各路線ごとのNo-show数を踏まえた上で、なるべく満席で飛ばしたいのです。なぜなら、一度飛行機が離陸したら、その便の座席は二度と販売することはできないからです。路線特性や連休スケジュールを踏まえ、路線ごとのNo-showの数を計算し、座席を販売しています。

IATA(国際航空運送協会)の見解

こうしたオーバーブッキングのような座席の販売方法は、会社が勝手にやっているわけではなく、実は航空会社の権利として認められているんです。

世界の航空会社の8割以上が加盟する、IATA(国際航空運送協会)という団体があります。本部はスイス、航空輸送の方針や規定を作り、加盟各社とも連携を取っています。航空業界で「IATA基準」と言えば、いわゆる世界基準、グローバルスタンダードを意味します。IATAは、オーバーブッキングについて次のように見解を示しています。

航空会社にフライトのオーバーブッキングを許可することで、消費者の選択肢が増え、運賃が安くなります。今日の業界慣行では十分に管理されており、航空会社はより良い収益管理を行うことができます。

航空会社がオーバーブッキングをすることが許されなくなった場合、運賃はおそらく値上がりします。なぜなら、航空会社は空席のコストを消費者に転嫁しなければならないからです。

出典: overbooking (IATA)

つまりIATAは、航空会社の収益管理の方法の一つとして、オーバーブッキングを認可しています。更に航空会社がオーバーブッキングの手法を取らない場合、事業を持続するために運賃を引き上げることにつながる、とも言っています。

ちなみに、航空券を購入する際に発行される「運送約款」には、各社規定のオーバーブッキングの対応についても情報提供されているはずです。細かい字でびっしりたくさん書いてある、あれです!気になる方は読んでみて下さいね。

原因②機材や乗員のスケジュールに変更によって、販売できる座席数が減った

本章①の冒頭で、「予約センターでは、使用する機材(飛行機)の座席数以上に予約を受け付ける場合がある」と述べました。ここで言う「使用する飛行機」は、あくまで予定であり、おおまかな夏ダイヤ・冬ダイヤごとの運航スケジュールで割り当てた機材です。

例えば、6月1日のA便でボーイング777-300型機(B777)の運航を予定しているとします。各部門では、次のようなアクションを取ります。

  • 予約センター:B777-300の座席数(ファーストクラス〇席、ビジネスクラス◇席、エコノミークラス△席)を基準に販売する
  • 運航部門:当日のA便の運航乗務員は、B777の資格を持ったスタッフ編成を組む

上記のように、運航予定の飛行機の種類は、①販売する座席の種類や数、そして②乗務員の編成などにも影響します。

というのは、基本的に民間航空会社の運航乗務員は、1機材の乗務資格のみを保有するからです。つまり、B777の資格を持った乗員さんは、B777にしか乗務しないのですね。(一方、自衛隊のパイロットは、1人で複数の機材に乗務することがあると聞きました。)

こんな風にがっちり予定していても、使用する飛行機の種類は、前日や当日に変わることも珍しくありません。やむを得ない理由で、使用する飛行機を取り換える必要が出てくると、会社が意図せずオーバーブッキングになってしまうのです。

次の例で、詳しく解説していきます。

例1: もし飛行機の運航機材が当日小さい飛行機に変わったら?

まず、当日の急な運航機材の変更例です。

  • A便は、100人乗りの運航機材(飛行機)を予定していて、満席(100名)の予約が入っていた
  • ところが前日の夜になり、A便に使用するはずの100人乗りの飛行機が、整備理由で使用できなくなったことが判明
  • やむを得ず、当日に80人乗りの飛行機に機材変更して、A便を運航することになった

このように、状況によっては使用する飛行機ごと、別の飛行機に変更する場合があります。仮に、整備中の飛行機と同じ種類で、座席数も同じ飛行機が、たまたまその空港にあれば問題ないのですが、いつもその条件を満たしているとは限りません。

上記の例では、使う飛行機の種類が変わってしまい、更に座席数も100人→80人と減っています。その結果、100-80=20名がオーバーブッキングとなります。

上記のような機材変更(=飛行機の変更)のほかにも、突発的な事態は色々あります。

例2: 乗務員のスケジュール変更が出たら?

次に、乗務員のスケジュール変更の例について見てみます。

  • 「東京~アメリカ」を運航するB便(300人を輸送する便)の乗務員が病欠で1名足らなくなってしまった
  • 運航乗務員が運航規定の数を満たさない場合、その便は運航できず、欠航してしまう。そこで代わりに乗務できる人を探したところ、大阪で1名対応可能なスタッフが見つかった
  • B便の出発地は東京、対応可能な乗務員は大阪にいることから、「大阪~東京」間の乗務員の移動が発生する
  • 国内区間を運航する便のスケジュールをチェックすると、C便にその乗務員を乗せれば、B便の出発に間に合い、B便は運航可能になることが判明した
  • B便に乗務する1名の乗務員を、C便で輸送することで、B便を予定通り飛ばそうと計画した

例えば、東京からアメリカまで、300人を輸送するB便の乗務員が、病欠で1名足らなくなってしまいます。そこで代わりの人を探したところ、少し離れた大阪で見つかりました。B便を飛ばすためには、国内区間「大阪~東京」を飛ぶC便に、その人を今すぐ乗せる必要が出てきます。

しかしC便(大阪~東京)は、すでに満席。100人乗りの飛行機で、ちょうど満席(100名)の予約が入っています。もしここで、C便に乗務員1名を追加で乗せる場合、C便は1名のオーバーブッキングが発生します(100-101=-1)。1名オーバーブッキングにはなるものの、この方法を選択すれば、「東京~アメリカ」のB便(予約数300名)の飛行機を飛ばすことができる、という状況。

もし皆さんが運航スタッフだったら、「C便で1名のオーバーブッキング」か、「B便で300名が乗る飛行機の欠航」、どちらを選択しますか?

仮に1名のオーバーブッキングを避けて、B便を欠航させた場合、300人のお客様に影響します。300人のお客様の対応にあたる地上スタッフの業務にも、大きな影響があります。これは苦渋の決断というか、決して気楽にできる判断ではありませんが、筆者であれば、やむなく前者の「C便で1名のオーバーブッキング」を選択すると思います。

2017年ユナイテッド航空の事件の原因となった「オーバーブッキング」とは

なお、我々の記憶に新しいところでは、2017年にシカゴで起きたユナイテッド航空の事件がありました。(オーバーブッキングに起因し、乗客を機内から無理やり降ろした様子がSNSで拡散され、世界中で話題に。それに対してCEOが出したコメントが、更に炎上を呼んでしまった件。)

この件は、報道によると「乗務員のスケジュール変更」によるオーバーブックが原因だった、と伝えられています。この便のそもそものオーバーブッキングの理由は、この例②のケースに該当していたようです。

チェックインカウンターでは

一方、これに対応する現場のスタッフにとっては、世間が休んでいるGWやお盆、お正月に仕事をするだけでもツライのに、オーバーブッキング便が毎日続くわけですから、ダメージ大。正直言って「もう勘弁して」って思うこともあります。

実際に、チェックインカウンターではどのようにオーバーブッキングを処理しているのか、見てみましょう!

振り替え先の確保

作戦としてはまず、振り替え先の便を確保します。東京・大阪といった規模の空港であれば、振り替え先の便が複数あるので、スタッフとしては比較的やりやすいです。自社便や他社便も含めて、お客様に案内できる便の空き状況をチェックして行きます。

繁忙期はどの会社もオーバーブッキングしていて、この時点で断られ続けることも。ただ、ノープランでチェックインを開始する訳には行かないので、何らかの手段をつかむまでは、探し続けます。

地方空港の場合は、「次の自社便が3日後」なんてことも珍しくないので、他社便や、他の空港から同じ目的地に行ける便の空席状況を洗い出し、実際の移動などをシミュレーションしたうえで選定します。もしお客様に陸路で他空港に移動してもらう場合は、電車の乗り継ぎ案内などもしっかり準備します。もちろん陸路の移動費用は会社負担です。

協力者の確保

振り替え便の目途がついたら、次は協力してくれるお客様探しです。お客様の合意なしには振り替えは実現しませんので、これが結構大変。一人一人に状況を説明し、合意を得られたら振り替え便を手配していきます。

ちょっと面白かったのは、外国人のお客様に協力を申し出るために、「実はこの便は・・・」と話し始めた瞬間に、お客様が全てを理解して、「NO!」と言われたり(まだ何も話してないのに何で分かったんだろう。。笑)

また、アジア系の夫婦2名連れのお客様と交渉していて、お父さんは結構乗り気だったので、後ろにいたお母さんに許可を得に行ったら一瞬で「NO!」と言われて、お父さんと筆者が二人で「ダメだったか」と顔を見合わせたり。その後お母さんが「協力できなくてゴメンね!早く帰らなきゃいけなくて」とフォローしてくれました。笑(謝らなくて大丈夫ですよ)

協力者への補償(コンペンセーション)は、会社によって規定がありますが、現金などをお支払いできる場合はきっちり準備し、交渉の時にお話します。

乗り継ぎ便を直行便に振り替える提案

筆者がよく頼みの綱としていたのは、「乗り継ぎ便を持っているお客様を、直行便に振り替える」、というやり方です。

例えば、「東京~パリ~ロンドン」、という旅程を持っている方に対し、「東京~ロンドンの直行便に乗っていただけませんか?」と交渉するのです。これはお客様にとって「乗り継ぎしなくてよい、更にダイヤによっては早く現地に着く」というメリットもあるので、振り替え便に乗ってもらえる成功率はぐっと高まります。

特に協力が得やすかったのは、外国籍の方。直行便ならお家に早く帰れますよ、というメッセージをお伝えするのです。また、ヨーロッパ系の方はオーバーブッキングや遅延があっても、日本人ほど驚かずに、「いいよ!」と運航に協力してくれることが多かったです。

一方、日本人旅行者はツアー利用者も多く、スケジュール変更すると予定が狂ってしまうので、あまり同意してくれる方は少なかった記憶が。それでも可能性がゼロではない限り、チェックインの時に一人ずつ時間を割いて交渉して行きます。

乗り継ぎ旅客がいないフライトもある

上記で述べた「乗り継ぎを直行に変更する手」が使えないフライトもあります。例えば、次のような場合。

  • アジアなどの短距離路線で、乗り継ぎのお客様がほとんどいない便
  • 地方空港に発着する便で、他に同じ目的地に飛んでいる同業他社が存在しない時

このように、アジア路線や地方路線などは「乗り継ぎを直行に変更する手」が使えないことがあるんですね。その場合、最先便(次の便)に乗ってくれる人を探します。

特に、「陸路で移動して他の空港から目的地に出発する」という振り替え便しか提案できない場合、なかなか合意が得られず、200名ほぼ全員にあたっても、全員に断られることもありました。そんな時は、座席がいっぱいになった時点で閉店するしかありません。最後にチェックインに来た方に、振り替え便に乗っていただくのです。

こういった交渉時には、まず「お一人で搭乗される方」は交渉の対象になりやすいです。(オーバーブッキングの数にもよりますが)

反対に、最初から交渉すらしなかったのは、家族連れ、特に小さなお子様連れの方、車いすが必要な方、視覚・聴覚に障害のある方、その他配慮が必要な方などです。

乗客として絶対に予約便に乗りたい時の対策

それでは、自分が予約した飛行機に絶対に乗りたい場合、どのような方法があるでしょうか?おすすめ度が高い順から見ていきましょう!

対策①了承しない

航空会社から、他の便に乗らないかと交渉されても、お客様が了承されなければ、そこで話は終了です。了承いただけないお客様は、振り替え対象から外れます。

それ以上追及されることはまずありませんが、「明日から仕事だから、今日中に帰らなきゃ」などと、さらっと理由を言っておいても良いかも。

対策②早めにチェックインする

オーバーブッキング便では、No-show(チェックインに来ないお客様)が何名いるかによって、最終的な振り替え人数が決まります。当日のNo-showが何人いるのか、事前に予測できないことから、スタッフはチェックイン終了時刻まで振り替えを待ちます。チェックイン終了時刻になって初めて、実際にオーバーした人数を判断するのです。

例で、詳しく見て行きましょう。下記のように、ある日の飛行機(D便)の予約数とチェックイン数をまとめてみます。

  • 座席数:100
  • 予約数:105
  • No-show:4
  • 最終的なチェックイン数:101

例えば上記の場合、座席数100に対し、予約数105、つまり5席オーバーブックしています(100-105=-5)。でも、実際にチェックインが終わってみると、チェックインされないNo-showのお客様が4名いました。

チェックインが終わってみてやっと、このD便で実際に座席数が足らなくなったのは「1席」だった、と判明します(100-101=-1)。つまり、オーバーブッキング5名のフライトでも、会社が最終的に他の便に振り替えるべき乗客数は1名なのです。

この判断をするのがチェックイン終了の時刻、つまり出発の1時間前頃です。(※正確なチェックイン終了時刻の規定は、運航会社によって異なります)

ゆえに、チェックイン開始早々に、自分の席を取ってチェックインしておき、搭乗口に向かっておけば、動かされることは少ないでしょう。

たとえインターネットチェックインしていても、早めにチェックインカウンターに来て、手荷物を預けるなどの手続きを済ませておくことが大切。逆に、出発時刻ギリギリに空港に行くことは、上記理由からおすすめしません!

対策③家族連れ・大所帯で旅行する

上記でも少し述べた通り、家族連れ(例:おじいちゃん・おばあちゃん・父・母・子供たち)のうち、数名だけを引き離して他の便に乗ってもらう、ということは行いません。

なぜなら、小さなお子様連れの方には、車いすが必要な方や障害のある方と同じように、会社側が配慮をしているからです。基本的に、ご家族連れの方は対象外にすることが多いです。

対策④マイレージの上級会員になる

マイレージの上級会員の方は、基本的にオーバーブッキングの交渉対象からは外れます。上級会員の定義は会社によって異なりますが、いわゆる「ゴールド、プラチナ」などのステイタスをお持ちの方です。

ただこれも例外があって、レアケースですが、ビジネスクラスがオーバーブッキングすることもあります。(機材繰りなど、やむを得ない事情がある場合)そして当日のビジネスクラス利用者のほとんどが上級会員だった場合は、例え上級会員でも、特別扱いできない場合があります。誰かが降りてくれない限り、飛行機は出発できないのです。

これは思い出すだけで動悸がしそうなぐらいツライですが、ビジネスクラスがオーバーした時、全員(35名ぐらい、全員外国人)と交渉して、35名全員に紳士的に断られた経験があります。

「もうダメだ、誰も降りてくれない。この飛行機出せないかも」と思いながら、出発時刻が迫る搭乗口で再び35名全員に交渉しました。多分追い詰められたスタッフを哀れに思ってくれたのでしょう、出発直前にやっと1名協力してくれたことが。(あの時のお客様の神々しかったことと言ったら…)

まとめ

以上、航空会社スタッフとしての経験をもとに、「なぜオーバーブッキングが起きるのか?というその理由、空港の現場での処理のしかた、そして自分がどうしても予約便に乗りたい時に取るべき対策」について書かせていただきました。

お客様がどうしても予約便に乗りたい場合の対策を、もう一度まとめておきます。

  • 振り替えに了承しない
  • 早めにチェックインする
  • 家族連れで旅行する
  • マイレージの上級会員になる

上記のように、ご自身の意思をはっきりと表明すること、そして早く空港に行って座席を確保すること、これが一番だと思います。

「オーバーブッキングはけしからん!」というお客様のご意見は重々承知してますが、実は航空会社の権利としてオーバーブッキングが認められていること、更に意図せずにオーバーブッキングになってしまう場合もあるということが、お分かりいただけたら嬉しいです。

実は、オーバーブッキングした便で、機内に搭乗済みのお客様に合意を得て降りてもらった経験もあります。これについては、オーバーブッキング体験談・お客様に機内から降りてもらうという記事に詳しく書いていますので、こちらも読んでいただけると嬉しいです。

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました!

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