飛行機に乗る時に、「この飛行機遅れないかな」と心配になることありませんか?遅延の理由が分かっていれば、あらかじめ心の準備ができたり、スケジュール調整ができたりしますよね。
今回は、航空業界に長年勤務していた筆者が、飛行機の遅延の原因を、IATAの遅延分類表をベースに、具体例を挙げながら解説してみました。
これを読めば、次のことが分かります。
- 飛行機がなぜ遅れるのかというその理由
- 運航の裏側でどういうことが起きているのか
- 運送約款を読み解きながら、会社側の遅延に対するスタンスの解説
- 「到着が早い=定時率が高い」とは限らない理由
これで、飛行機に乗るための心の準備はOKですね。さっそく読んでみましょう。
遅延の種類はこんなにある
ひとくちに「飛行機の遅延」と言っても、実はたくさんの種類があります。「えっ、こんなにあるの!?」と思う方もいるかもしれませんが、遅延理由は、大まかに次のように分類されます。
- 航空会社理由(会社都合)
- お客様・手荷物の理由
- 貨物・郵便物の理由
- 整備の理由
- 運航・乗務員の理由
- 空港理由(不可抗力)
- 到着地空港の管制上の理由
- 空港施設の理由
- 出発空港や到着地空港の発出した制限の理由
- 管制上の理由(不可抗力)
- 航路の調整
- 管制官などマンパワーの調整
- 保安検査・出入国管理の理由(不可抗力)
- 天候理由(不可抗力)
- 到着地空港の悪天候による管制上の理由
- 天候理由
- その他
- 運航機材・乗務員・旅客・手荷物などの到着遅れ
上記は、IATAという航空業界の団体が策定した「遅延の分類」です。IATAというのは、世界の航空会社の8割が加盟する業界団体。エアライン業界の世界基準を決めて、業界のスタンダードを策定しているのがIATAです。
そのIATAが発行する遅延分類を見てみると、遅延の要因は様々であることが分かります。では、それぞれの遅延のケースを具体的に見て行きましょう。
遅延の種類1:航空会社理由(会社都合)
まず、航空会社理由による遅延は、次のような場合に分類されます。
- お客様・手荷物の理由
- 貨物・郵便物の理由
- 整備の理由
- 運航・乗務員の理由
航空会社理由①お客様・手荷物の理由
例えばよくあるケースでは、「①お客様・手荷物の理由」があります。
お客様が出発前に、免税店などでお買い物をしているうちに時間が経ってしまい、搭乗口に来るのが遅れてしまうケース。また、オーバーブッキングしていて、その処理で遅れてしまう場合なども、このケースに当たります。
「オーバーブッキングの処理で遅れるって、どういう意味?」と思った方は、空港スタッフが語るオーバーブッキング体験談・お客様に機内から降りてもらうの記事で詳しく解説していますので、こちらを読んでみていただけると嬉しいです。
航空会社理由②貨物の理由
次に、「②貨物の理由での遅延」です。
例えば、貨物上屋での組み付けが遅れて、飛行機に搬送するのが遅れた場合などがあります。飛行機にのせる貨物は、全て「上屋(うわや)」という場所で、専用の入れ物に組み付けられます。
その上屋での作業が遅れてしまった場合や、貨物と一緒に飛行機に搭載する書類に不備があって遅れてしまう場合もあります。
航空会社理由③整備の理由
「③整備の理由」も時々起こります。飛行機って、ざっくり言ってみれば「大きなコンピュータ」のようなもの。どこか一つの計器にエラーが出てしまうと、それを検証する必要が出てきます。
そのため整備士がコックピット(操縦室)に入り、エラーの原因を探りつつ、整備作業に当たってくれます。
でも、こうして整備士が出発直前にコックピット(操縦室)に入る時は、スタッフはドキッとします。なぜなら、整備作業が長引いてしまい、大幅に遅延することもよくあるからです。
以前、筆者が整備士に聞いた話では、こういう場合に「何時何分にエラーが消えるから、何時に飛行機を出せます」と予測することは、なかなか難しい部分なんだそう。
言われてみればそうかもしれません。
例えばこれが飛行機じゃなくて、「自分のパソコンでエラーが出て、いきなり画面がシャットダウンしてしまった」とします。
何とかしてエラーを解消しようと、色々調べて試行錯誤して、解決するまで頑張りますよね。そんな中、「このエラーは何時何分に解決する」なんて、自分で予想できないことも多いのでは。
とはいえ、飛行機のプロとしては「いつ出発できるか不明」とは言えないので、目安となる予想時刻をお客様に案内することになります。
ということで、整備が発生したことが理由で遅延する場合には、出発予想時刻がなかなか読めないので、1時間、また1時間、といった形で遅れが発生してしまうことも、よくあります。(もちろん、すぐに解決する場合もあります!)
航空会社理由④運航・乗務員の理由
次に「④運航・乗務員の理由」です。運航上の理由となる場合は、例えばフライトプラン(飛行計画)関係があります。
筆者が運航部門にいた時に経験したケースですが、冬場のフライトで、あるロシアの飛行場が発出する天気予報に合わせて、飛行計画を立てたことがありました。飛行計画は、当日の天気などを基準に作られます。そしてその飛行計画に応じた燃料を、飛行機に搭載することで、安全に運航しています。
ところが、飛行計画を立てた1時間後ぐらいに、ロシアの飛行場予報が変わってしまい、ロシアの天気が急激に悪化。いきなり大雪の予報が入ってしまったのです。とてもじゃないけど、当初の飛行計画が成立する天気じゃなくなっちゃいました。
「ヤバイ!!大雪の予報が入っちゃった(T-T)」と思い、急きょ他の飛行計画に変更し、安全に飛べるように調整しました。
ただ、この時は冬場。冬のロシアって、だいたいどこの空港も雪が降ってるんですよね。他の選択肢を探すのも一苦労でした。笑
この時は、「ロシアの飛行場予報の急変更に伴う、飛行計画の変更」が理由で、数分の遅延をしてしまいました。その節はごめんなさい。おそロシア…。
遅延の種類2:空港施設の理由(不可抗力)
次に、空港施設が理由の場合。これは、空港が管理する施設や設備が起因となった遅延です。
ここでいう「空港が管理する施設や設備」というのは、例えば以下などが挙げられます。
- 滑走路
- 誘導路
- 駐機場
- 滑走路や誘導路に設置されている灯火 など
空港施設関連で時々起きるケースとしては、飛行機が離陸するために必要な「滑走路」が、一時的に閉鎖してしまうことがあります。
空港によって滑走路の数は異なりますが、国内では、だいたい風向きによって、1、2本の滑走路を使い分けていることが多いかと思います。言ってみれば、その空港にある限られた滑走路を、就航している会社同士が共有している状態。
そんな中、ある会社の飛行機が滑走路に着陸する時に、車輪が上手く出ないことがありました。やむを得ず、「胴体着陸」と言って飛行機のお腹の部分で滑走路に降ろすことになりました。
結局その飛行機は、安全に着陸こそできたものの、車輪を出して走行できなくなり、着陸直後に滑走路の上で立ち往生してしまいました。こうなると、重機で引っ張らないと、飛行機は自分で滑走路を離れることができません。
この件が原因で、空港の滑走路が1本閉鎖してしまう状態が、約3-4時間続いたことがありました。出発間際の飛行機が、空港内でたくさん順番待ちしていても、自分たちの順番が来るまでは出発を遅延させざるを得ません。
空港施設の理由による遅延とは、例えばこのような場合が該当します。(他にもいろんなケースがあります)
更に、このような事件を起こしてしまった会社の人が、空港の他の会社の皆さんに、会議の場で平謝りしていたりすることも。。(´・ω・`)
遅延の種類3:管制上の理由(不可抗力)
そして管制の指示も、飛行機の運航には大きく影響します。管制上の理由の遅延というのは、超ざっくり説明すると、「道路の混雑」みたいな感じ。
絵で表すと、次のようなイメージ。

上の図のように、A空港行きの飛行機が、日本の各空港から毎日出ています。
例えば成田空港発のA空港行きは、一日10便、千歳空港発が4便、福岡空港発が4便、関空発は5便あるとします。合計すると、日本国内からA空港行きの飛行機は、一日に23便あります。
その23便が、仮に同じ「空路」を使うとします。空路とは、車で言うところの道路みたいな感じ。車と同じで、飛行機の通る道もある程度決まっています。このように、出発時刻が近い飛行機が複数ある場合、飛行機の通る空路も混雑します。
ここまでは日本国内の話ですね。
さらに日本以外の国からも、A空港行きの飛行機が同じ数以上に存在します。外国を出発した飛行機も、行き先が同じであれば、上空を通過して同じ「道路」で合流することがあるのです。こうなると、道路の混雑度は更に増しますよね。
こういった空の交通整理は、管制官が行っています。飛行機が安全に飛べるように、管制官が交通整理を行った結果、出発機が地上でしばらく待つような指示を受ける場合があります。
フローコントロールを行う理由
これは、専門用語では「フローコントロール」とも呼ばれ、特に夏場のアジア路線に多く見られます。夏場の中国方面行きなどは、毎日こういった管制上の理由で出発待機があり、長いと4時間ぐらい空港で待機することも珍しくありません。
それでは、管制官がなぜ出発地の空港で飛行機を待たせるのでしょうか?
きちんと定時に出発できるのに、なぜ「出発地の空港で離陸許可を出さない」という判断をしているのでしょうか。
理由は、飛行機は一度離陸してしまうと、燃料がどんどんなくなっていくからです。
仮に飛行機が上空で待機する場合、もちろん燃料をどんどん消費して行きます。燃料が無くなると、最悪の場合は人命に関わります。そういった危機的な状況を避けるために、飛ばさずに地上で待たせているのです。
と、理屈では分かっているものの、実際にこれが毎日続くと、かなり大変な事態。お客様も「急いで搭乗したのに、出発しないってどういうこと?」と思ってしまいますよね。
ただ飛行機が飛ぶ裏側には、そんな背景もあるということを、少しだけ知っていただけたら嬉しいです。
遅延の種類4:保安検査・出入国管理の理由(不可抗力)
また、「保安検査や出入国管理の理由」での遅延も起こります。
例えば、あるアジア系のお客様が日本に入国できず、入国管理局の判断で本国に強制送還されるケースがありました。ちなみに、こうしてお客様が入国できないケースは時々発生し、専門用語では「Inadmissible(INAD)」と呼んでいます。
その際、係員がお客様に同行しながら、出発の搭乗口に向かいました。搭乗口では、すでに搭乗が開始されていて、他の乗客は飛行機に乗り始めています。
お客様と係員が搭乗口に向かう途中、保安検査で、お客様の化粧品のビンが、機内持ち込みサイズを超えていたことが発覚。その化粧品を持ったまま、保安検査を通ることはできなくなってしまいました。
つまり、そのお客様が保安検査を通過して飛行機に乗るためには、所持品である化粧品を、その場で破棄しなくてはなりません。
お客様は、日本に入国できずに送還されるばかりか、大事な化粧品まで保安検査場に置いていくことに納得できなかったのでしょう、カッとなって大声で怒鳴りながら、自分の化粧品のビンを、自分で床に投げつけました。
お客様が床に投げつけたビンは割れて、粉々になります。割れたガラスの破片が、周囲にも飛び散りました。周りにいた係員や保安検査スタッフには怪我がなかったのが、不幸中の幸いでした。
そうこうするうちに、出発の10分前ぐらいになってしまいます。お客様が運航のルールを守らない場合や、暴力行為を行う場合、残念ですが飛行機にお乗りいただけない可能性が出てきます。そうした判断を、出発直前に行った結果、飛行機は10分ぐらい遅れてしまいました。
結果的に、お客様は翌日の飛行機で帰国されました。こういったケースで飛行機が遅れる場合、たとえお客様理由の遅延であっても、航空会社にとってはある意味「不可抗力」とも言えます。
保安検査による遅延例は、こうしたケースがあります。
遅延の種類5:天候理由(不可抗力)
そして、忘れてはならないのが天候です。「雨、霧、雷、台風、強風、雪」など、ありとあらゆる自然現象の中を、飛行機は飛んでいます。
例えば成田空港。あんなに風が強くて、朝の霧がひどく、雪も雷も多い空港って、少ないんじゃないでしょうか。笑
特に印象的なのは、冬に雪が降って積もってしまった時。雪が降る中や、気温が低い時に飛行機が飛ぶためには、除雪(De-icing)が必要になってきます。なぜなら飛行機は、翼に雪が積もると飛べなくなってしまうからです。
そのため、出発前に専用の除氷液を翼に散布します。散布した後は、除氷液が有効な時間内に、さっさと滑走路に入って離陸しなければなりません。つまり、こんな感じ。
- 除雪作業 → 出発許可をもらう → 除氷液が有効なうちに離陸
でも冬場など、気温が低くて除雪が必要な時って、どの飛行機も一斉に除雪が必要だったりします。そして、除雪ができる専用車両やマンパワーは限られています。
そのため大雪が降った日には、どの飛行機も除雪待ちで、長蛇の列。自分たちの駐機場に除雪チームが来てくれるまでに1-2時間かかる、なんてことも。
除雪が終わったら、今度は離陸許可の順番待ちが始まります。管制官に出発許可をもらったら、やっと出発。
ただ、そうやって駐機場を出た後、滑走路手前で「除氷液」の有効時間が切れて、また駐機場に引き返してくることも時々あるんです。そうして駐機場に引き返して来たら、また除雪のやり直し。(T-T)
雪による遅延は、このような背景があったりします。
遅延の種類6:その他(運航機材・乗務員・旅客・手荷物などの到着遅れ)
その他の遅延の種類としては、「運航機材・乗務員・旅客・手荷物などの到着遅れ」のケースもあります。ここで言う「運航機材」というのは、その便を運航する飛行機のこと。飛行機は、一日に色んな空港を行ったり来たりするスケジュールをこなしている場合が多いです。
例えば、ある日の飛行機(仮に、A航空の1号機とする)のスケジュールが、次のようなパターンだったとします。
- 成田→小松
- 小松→成田
- 成田→福岡
- 福岡→羽田
もし、1号機の2番目のフライトである「②小松→成田」が、管制上の理由などで1時間遅れてしまうと、「③成田→福岡」の出発も1時間ぐらい遅れてしまいます。
福岡到着が1時間遅れると、玉突きのような感じで、その次の「④福岡→羽田」の飛行機も、同じく1時間遅れてしまいます。
「運航機材の遅延」というのは、こういうケースを指します。
運送約款「運航スケジュールはあくまでも予定」
ちなみに、航空会社の運送約款で、「遅延」がどのように定義されているか確認してみます。
「運送約款」というのは、航空会社が運送についての契約内容を詳しく書いた文書のこと。私たちが航空券を買うと、その航空会社の運送約款に合意したとみなされます。
航空券を買うと、何か細かい文字でびっしり書いてある書面が、旅程と一緒に送られてくるのを目にしたことがありますか?そう、あの書面のことです。
運送約款(要約)
- 会社は、時刻表の通りに運送するように最善を尽くします
- ただし時刻表はあくまでも予定で、保証された時刻ではありません
- 運航スケジュールは、予告なしに変更されることがあります
- もしスケジュール変更があった場合に、お客様や手荷物などの乗り継ぎに支障が出ても、一切責任は負いません
運送約款を見てみると、上記のように書いてあります。
筆者はこの記事を書くにあたり、日本の航空会社の運送約款を3-4社見てみましたが、どの会社もだいた同じような表現になっていました。(会社のHPで公開されていますので、気になった方は見てみて下さい。)
つまり、会社としては、「飛行機は、時刻表通りに飛ばないこともあります。遅延しても責任は負いかねます」というスタンス。
飛行機に乗る前には、こういったことも踏まえて、余裕のあるスケジュール調整をしておきたいですね!
「到着時間が早い=定時率が高い」とは限らない理由
よくエアラインの「定時率」がメディアなどで取り上げられ、「この航空会社は何位でした」というランキングが紹介されていることがあります。お客様にとっては、定時率が高い会社の飛行機に乗れば、安心材料になりますよね。
でもこれって、よく調べてみると「到着時間」で統計されていたりします。例えば次のような感じ。
- A航空1便(羽田ー福岡)
- 予定の到着時刻(STA):9:30
- 実際の到着時刻(ATA):9:20
上の比較を見ると、確かに予定よりも早く福岡に着いています。えらいです。
ただ、予定の到着時間というのは、そもそものスケジュール設定をあらかじめ通常よりも長めにしておけば、早着しているように見せることもできてしまいます。
つまり、例えばこういうことです。
- 一般的な羽田―福岡間の実際のフライトタイム:2時間(仮)
- A航空の羽田―福岡間のダイヤ上のフライトタイム:2時間30分
極端な話ですが、上記のように、平均的なフライトタイムよりも長めにダイヤを設定してしまえば、早着しているように見えるのです。なぜなら、「到着時刻」だけを基準にしているから。
ということで、「到着時刻」を基準にランキングを作ることは、消費者の方にとって一つの指標にはなると思いますし、実際に「到着時刻」を死守している、優れた会社もたくさんあると思います。
ただ、それだけで「この会社は優秀だ」とは断定しづらい部分があります。なぜなら、上記で比較した通り、ダイヤの設定の仕方一つで、見え方が変わってしまうからです。
本当の腕の見せ所は「定時出発率」
ちなみにですが、筆者がいた外資系エアラインでは、社内で「定時率」を考える場合、あくまでも「定時出発率」を基準にしていました。「定時出発率」が低いと、外資系ではボーナスに影響することも珍しくありません。
ということで、筆者の「定時率」の考え方を次のようにまとめます。
- 現地にオンタイムで到着することを最重要にしているお客様にとっては、「到着時刻」は一つの大切な指標
- しかし、その会社のパフォーマンス全体を考えた時、一番実力が分かる部分は「定時出発率」ではないか
上記のように考える理由は、この記事で考察してきたように、「飛行機は、様々な阻害要因を最短距離で解決しないと定時出発ができない」という乗り物だからです。
遅延には、会社都合の要因もあれば、不可抗力も多いということが、お分かりいただけたら嬉しいです。
まとめ
以上、航空業界での勤務経験を元に、次の点について考察してみました。
- 飛行機がなぜ遅れるのかというその理由
- 運航の裏側でどういうことが起きているのか
- 運送約款を読み解きながら、会社側の遅延に対するスタンスの解説
- 「到着が早い=定時率が高い」とは限らない理由
飛行機は遅れが付き物です。くれぐれもスケジュールには余裕を持っていただき、フライトを楽しみましょう!
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