チェックインと出入国審査の違いとは?民間航空会社にパスポートやビザを見せる理由 | mikolog

チェックインと出入国審査の違いとは?民間航空会社にパスポートやビザを見せる理由

空港の仕事

空港のチェックインって、一体何をやっているのか、皆様ご存知でしょうか?「座席を決めたり、荷物を預けたり、、」そうです、その通りです!でも、何でパスポートを見せる必要があるのでしょうか。

  • 出入国管理局(イミグレーション)でもない航空会社が何でパスポートを見るのか?
  • そもそも、チェックインカウンターで、目的地のビザを見せるのはなぜ?

と思ったことある方、いらっしゃるのではないでしょうか。実は、すべて意味があってのことなのですが、その理由はあまり正確に知られていなかったりします。今回は、航空会社で旅客&ディスパッチとして長年働いた筆者が、渡航書類の確認について、分かりやすく解説してみようと思います。

これを読めば、今さら人には聞きづらい「空港のチェックインとは何か?」、そして「渡航書類の確認をなぜ出発地で行うのか?」という理由が分かっちゃいます!それでは早速読んでみましょう。

空港のチェックインとは?

まず、そもそも「空港のチェックインとは何か?」という部分から考えてみます。国際線でのチェックインは、ざっくり言うと以下のようなことを行います。

  1. 座席を決定
  2. 搭乗券を発行
  3. 手荷物を預けて荷物控えを発行
  4. 本人確認と渡航書類の確認

つまり、①飛行機のどこに座るか場所を決め、②搭乗券をもらい、③大きい手荷物を貨物室に預け、④渡航書類の確認を行うのです。

最近は、空港によってはセルフチェックインが進み、①~③をお客様に実施してもらう「セルフ化」が進みつつあります。お客様ご自身で座席を選んでチェックインしてもらうのです。

でも、④渡航書類の確認は、100%セルフ化することは難しく、係員の判断が必要な部分です。この「渡航書類の確認とは?」という点について、以下で詳しく見ていきましょう!

渡航書類の確認とは

国際線を運航する航空会社は、国境を越えてお客様や手荷物などを輸送します。そのためチェックイン時には、おもに次のようなことを確認しています。

  • パスポートの有効性
  • 日本を出国するための条件を満たしているか
  • 目的地に入国するための、ビザや渡航書類を持っているか
  • 乗り継ぎをするための、ビザや渡航書類を持っているか(乗り継ぎがある場合)

つまり、パスポートが有効かどうか、本人と一致しているか、日本を出国できるか、そして目的地への入国や、乗り継ぎに必要な渡航書類を持っているか、という部分を確認しています。

(ただし、渡航書類の面でチェックしているだけですので、実際の出入国審査と100%同じ観点ではないですよ!後で書きますが、渡航書類がすべて揃っているからといって、即入国審査を通過できるとは限らないのです。)

インターネット・チェックインの場合

渡航書類の確認は、有人のチェックインカウンターに限ったことではありません。「インターネット・チェックイン」や、空港の出発ロビーにある「自動チェックイン機(キオスク)」でチェックインされたお客様、すべての方に必要です。

今ではすっかりインターネット・チェックインが普及して、搭乗前日に自動的にチェックインしてくれる会社もあり、とても便利ですよね!お客様にとっては選択肢が増えて嬉しい限り。でも実は、チェックインする側の手間としては、あまり減ってはいないのです。(むしろ手間が増えているという声も・・・)

理由としては、パスポートや渡航書類の確認は行わないわけにはいかないので、形を変えながらどこかのタイミングで行う必要があるからです。従来はチェックインカウンターのみで行っていた渡航書類の確認を、インターネット・チェックイン利用者のために、別途、搭乗口で改札しながら対応するわけです。インターネット・チェックインが増えたことにより、かえって搭乗口の業務が増えてしまうことも。

「でも、航空会社は入国管理局でもないのに、なぜパスポートをやビザをしつこくチェックするの?」と疑問に思われる方がいるかもしれません。(実は筆者は、自分がこの仕事をするまでは、不思議に思っていました!)これには、ちゃんとした理由があるのです。

入国不許可で会社に罰金も

もし、航空会社が飛行機で輸送したお客様が、目的地で入国できなかった場合、そのお客様は入国不許可と見なされ、本国に送還されます。ちなみに、このような入国不許可の旅客を、専門用語で「Inadmissible(通称:INAD/インアド)」と呼んでいます。

そしてそれだけではありません。入国不許可となったお客様を輸送した航空会社に、当局から罰金が課せられる場合があるのです。つまり、パスポートやビザなどの渡航書類の確認が不十分だと、お客様が現地で入国できずに強制送還され、ご迷惑をおかけしてしまう上に、自分たちの会社にペナルティが課せられる場合があるのです。

そのため、渡航書類の確認については、どの会社もチェックイン時に「TIMATIC(ティマティック)」という専用のシステムを使って、しっかり行っています。

TIMATICとは

TIMATIC(ティマティック)って何?ということで、簡単に説明しておきます。2020年時点で、世界には196か国があります。196種類のパスポートを持った方がそれぞれ、世界中の空港に渡航するための条件を、いち係員がすべて暗記することは不可能です。

ゆえに、共通のデータベースで参照できるようになっています。TIMATICのデータベースは全編英語で、下記のような渡航情報が書かれています。長いものだと1件で4-5ページに及ぶことも。

  • パスポートに関する必要条件と推奨事項
  • ビザに関する必要条件と推奨事項
  • 健康に関する要件と推奨事項
  • 出発空港または到着空港のいずれかで旅行者が支払う空港税
  • 搭乗者による物品及び小型ペットの輸出入に関する税関の規定
  • 旅客による輸出入に関する通貨規制

例えば「A国籍の旅客が、B空港を経由して、C空港に行くための条件」という風に、お客様の国籍や旅程から検索し、公式のデータベースで必要な渡航書類を調べることができるのです。

例)日本人が、パリを経由して、アムステルダムに行く場合

仮に、「日本人が、パリ(フランス)を経由して、アムステルダム(オランダ)に行く」場合を考えてみます。

TIMATICに出てくる条件は、比較的シンプルです。例えば「〇か月以内の滞在であればビザは不要、ただし帰りの航空券または第3国に抜ける航空券を所持していること」というような条件が英語で出てきます。パスポートやビザに関する重要項目の後、推奨事項などが続きます。

例)ガーナ人が、パリを経由して、アムステルダムに行く場合

次に「日本在住のガーナ人が、パリ(フランス)を経由して、アムステルダム(オランダ)に行く場合」となると、どうでしょうか?話はかなり変わってきます。

最初に「ビザが必要」、そして「トランジットビザが必要」というような重要条件が出てきて、その他の推奨事項などが続きます。

この場合、①日本の出国条件、②最終目的地の入国条件、に加えて、③経由地で「トランジットビザ」が必要になることがあるのです。パスポートによっては、たとえ入国審査を通らずに、乗り継ぎエリアから出なくても、ビザが必要な場合があります。

また、日本在住の外国人の場合、日本の再入国許可を事前に取得しておかないと、日本に戻ってこれなくなる場合があります。そういった条件を1つずつクリアしているか確認しています。

(※上記の渡航条件2例は、あくまでもTIMATICの説明用です。実際の渡航条件については、最新のTIMATICを参照ください)

渡航書類のチェックは神経を遣う確認作業

そして係員にとっては、普段からあまり目にする機会の少ない国のパスポートだと、どこに何が書いてあるのか、瞬時に分からないことも。特に新人の頃は、お客様のパスポートを見せてもらう時に、必要な部分だけを一回でさらっと見ることがなかなか難しいんですよね!

なぜかと言うと、TIMATIC(ティマティック)の記述に沿って、それぞれのお客様の「①出国条件、②トランジット条件、③入国条件」と、1つずつ確認していくことになるからです。

ここでうっかり、パスポートのページを何回も行ったり来たりしてめくってしまうと、それを見たお客様が「あのさ、さっきから俺のパスポートで何を探してるの?」と不安になってしまうことも。お客様に突っ込まれて、「いえ、これはですね」と英語で弁明し始めると、焦って余計に意味が分からなくなったりするんですよね(T-T)

筆者は、お客様に余計な心配をかけないよう、パスポートはなるべく一度めくるだけで判断し、後戻りはしないように心がけていました。パスポートは大事な個人情報でもあり、渡航書類のチェックは神経を遣う確認作業なのです。

このように、目の前のお客様の渡航書類が、条件に全て当てはまっているかどうかを、1件ずつ確認するのがチェックインの任務の一つ。データベースと実際の渡航書類を突き合わせながら、チェックイン担当者が、「このお客様は目的地に入国するための渡航書類を全て持っている」と判断して初めて、搭乗手続きを進めることができます。

出発前に、到着地の入国条件を見る理由とは

「でも、チェックインの後ですぐイミグレーション(出国審査)に行くでしょ?渡航書類に不備があれば航空会社に連絡が来てすぐに分かるのでは?」と思われる方もいるかもしれません。(筆者は入社半年ぐらいまではそう思っていましたが何か、、え、私だけ?笑)

入国用の渡航書類を確認する、最初で最後のタイミング

実は、日本を出国する時の出国審査(イミグレーション)では、出国用の渡航書類のみを確認しています。現地の入国審査は、入国地で行うからです。つまり、目的地に入国するための渡航書類がそろっているかを確認するタイミングは、出発地のチェックインカウンターが最初で最後。チェックインカウンター(場合によっては搭乗口)を過ぎれば、飛行機に乗って目的地に着いて、海外の入国審査に進むまで、渡航書類を確認するタイミングはどこにも無いのです。

つまり、日本のチェックインカウンターが、目的地に入国するための渡航書類を確認できる、唯一のチェックポイントなのです。仮にチェックインカウンターでうっかり見落としてしまうと、お客様が目的地で入国できなくなり、そのまま折り返し便などで日本に引き返してきてしまうことにもつながります。

そうなるとお客様にも迷惑がかかるばかりか、前述のとおり、入国できないお客様を輸送した会社に対して、罰金が課せられてしまうこともあります。

このように、渡航書類の不備は、お客様にとっても、会社にとっても、重大な事象につながってしまいます。だから、チェックインカウンターでは、結構真剣にビザや渡航書類について質問しているのです。

必要なビザを持っていない場合

もし、A国に行くのにビザが必要な国籍の方が、そのビザをお持ちでない場合、当然ながら飛行機に乗って出発することはできません。その場合は、チェックインをお断りし、改めて渡航書類を揃えてから、搭乗してもらうことになってしまいます。皆様が飛行機に乗る時は、くれぐれも渡航書類の準備をお忘れなく!

そんなわけで、チェックインというのは、座席や荷物を調整するだけでなく、旅程と国籍に合わせた渡航書類がそろっているかを判断する場所でもあるのです。さらに場合によっては、オーバーブッキングや手荷物の超過料金の交渉を並行して行うことも。

(オーバーブッキングについては、航空会社がオーバーブッキングをする理由を解説した記事、手荷物の超過料金の交渉については、空港のクレーム対応事例についての記事を読んでいただけると、雰囲気が分かっていただけると思います!)

こうしてお客様と一通り色んなお話をした後で、チェックインが終わるころには、「あれ、渡航書類は大丈夫なんだっけ??」と、最初に見たはずのパスポートを、最後にもう一回見せてもらったりすることも。笑

入国拒否されるんじゃないかと思った時の話

余談ですが、筆者は旅行が趣味で、隙あらば海外に行っています。ある時、スタッフの割引航空券でカイロ(エジプト)に行ったことがありました。当時のTIMATICによると、日本人がカイロに行くにはビザが必要ですが、到着地でビザが取れます。

カイロに到着して、ビザを購入し入国審査ブースに進むと、審査官が筆者のパスポートにブラックライトをあててずっと見ています。「ちょっと待ってて。パスポートを調べてくる」と言って、審査官がパスポートを持って事務所に行ってしまいました!そしてそのまま、審査官は帰ってきません。

周りに並んでいた乗客は、みんな入国してしまい、まだ入国審査エリアにいるのは、筆者一人だけ。ここでのポイントは、「スタッフ割引の航空券」で来た、という点です。一般の乗客として来たのであれば、仮に入国できなくても、まだ傷は浅い。

「えっちょっと待って、入国できないの?スタッフ割引チケットで搭乗して、まさかの入国不許可(INAD)ケースになるのでは・・・(T-T)」と青くなりました。

そう、格安のスタッフチケットを利用する者に求められること、それは「一切問題を起こさずに自力で帰国する」ことです。たとえ機内で、某社のCAさんに無言で機内食をすっ飛ばされても、最後に残ったミールをいただけるまで、無言で待つぐらいの空気を読む力が求められます。(日系エアラインは怖い)

なのに、筆者ときたら入国できていません。スタッフが入国不許可とか、今まで聞いたこともありません。ここまで記事を読んだ方なら、入国不許可の旅客を輸送した航空会社に何が起きるか、もう理解されているはず。そうです、罰金です。

「やばい、このままでは伝説を作ってしまう。。どうやって上司に詫びればいいのか、、切腹やー(T-T)(T-T)」

と思っていたら、エジプト人の審査官が、戻ってきました。「何か問題?」と聞いたら、「いやーちょっとパスポートが痛んでたみたい、もう確認取れたから大丈夫だよ」と。

結局、筆者だけ入国できずに15分ぐらい待っていたものの、無事に入国許可印を押してくれました。やっぱり、チェックインの時に確認できる「ビザや渡航書類」というのは、入国審査の一部でしかないんだなあ、とこの時に実感しました。

まとめ

以上、今さら人には聞けない「空港のチェックインとは何か?」、そして「目的地の渡航書類の確認をなぜ出発地で行うのか?」という点を、詳しく書かせていただきました。

実際に空港でチェックインしていると、ビザが必要な国に行くのに、ビザをお持ちでない方が、数%ぐらいはいらっしゃいます。そのたびにお客様からは、「航空会社はイミグレーションでもないのに、何でビザのこと言われなきゃならないんですか?」と聞かれることも。

決して、筆者の趣味でビザについて質問していたわけではないことが、お分かりいただけたら嬉しいです。(T-T) 渡航書類は大事ですので、不明な点は前もって旅行会社や大使館などで確認しておけば、空港での手続きもスムーズですね!

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。

それではまた!

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