空港で飛行機を乗る時に預けた手荷物が、到着地で出てこない!なんて体験されたことがある方いますか?ちょっと困っちゃいますよね。特にスーツケースの中に薬や衣類、仕事で必要な書類とかが入っていたら、かなり焦ってしまうのではないでしょうか。
こういった荷物の到着が遅れるケースを、航空会社では「未着」と呼んでいます。「ロストバゲージ」という言葉を一般のお客様から聞くことはありますが、航空会社としては「未着」と言います。それでは、荷物が未着にならない方法、なるべく回避できる方法って、あるんでしょうか?
今回は、航空業界で長年働いていた筆者が、なぜ手荷物の未着が起こるのか?というその理由、そして未着を防ぐためのちょっとした工夫について書いていきたいと思います。
これを読めば、空港で荷物を預ける時に気を付けるべきこと、そして未着を防ぐための簡単な予防策が分かっちゃいます!早速見てみましょう。
運送約款「荷物が人間と同じ便に乗るとは限らない」
まず最初に、航空会社が手荷物の輸送についてどのように定義しているか確認してみましょう。航空会社の手荷物輸送のスタンスは、「運送約款」を読むと分かります。これは結構大事なポイントなのですが、意外と知られていないようです。
お客様が航空券を購入すると、航空会社との間に運送契約が結ばれます。その契約内容を詳しく書いたものを、「運送約款」と呼びます。それによると、手荷物の取り扱いは、だいたいこんなスタンスです。
運送約款「航空会社はできる限り、お客様と荷物を同じ便で運送します。でも色んな理由で難しい場合には、荷物を別便などで輸送します」
「え、ちょっと待って、預けた荷物が、自分と同じ便に乗るとは限らないってこと?」と思われた方!はい、ざっくり言うとそうなんです…。
しかも航空券を購入するタイミングで、お客様にお伝えしているわけですね。筆者は新入社員の時にこの約款を勉強して、めちゃくちゃびっくりしました。それまで、このスタンスを知らずに飛行機に乗っていたからです。
手荷物輸送に関しては、どの会社でもだいたいこのようなスタンスで運送契約がなされています。これを知ってからというもの、飛行機に乗る時には極力荷物を預けないようになりました。国内線であれば、まだリスクは少ないですが、海外に行く時は特に気を付けています。
なぜ起きるか?未着の原因と対策
それでは、なぜ「飛行機に乗る時に預けた荷物が、お客様と一緒に到着しない」という事態が起きてしまうのでしょうか?よくある理由について、実際に空港で起きた事例を交えて見てみましょう!
原因①手荷物タグが途中で外れてしまう「タグオフ」
チェックインの時に預ける荷物に付けてくれる、バーコードの入った白くて細長いシール、ありますよね!あれは手荷物の「タグ」と呼ばれています。
タグには、お客様の名前や行き先、乗り継ぎ情報、予約番号などが印刷されています。スタッフが手荷物の仕分けをする時に、このタグをスキャンして便名を読み取り、正しい飛行機に載せています。

ところが、このタグが搬送中に外れてしまうことが、時々起きてしまいます。チェックインの後、ベルトコンベアに載せて運ぶ時に、どこかに引っかかってスパーンと切れてしまうんですね。そんな時は、荷物に残っている他の情報から、お客様情報を判別します。もし名札などが何もついていない場合、判別に時間がかかり、出発に間に合わない場合があります。
こういう「タグが取れてしまう事象」は、航空会社では「タグオフ」と呼んでいます。タグオフを防ぐために、タグを印刷した時のシールの端っこにある「スタブ」を、荷物に2か所に付けて預かる会社もあります。

下記のように、タグ情報の一部が入った「スタブ」を、スーツケースのどこかに貼ってあるのを見たことある方、いるかもしれませんね!このように航空会社も「タグオフ」を防ぐために、ダブルチェックしているのです。

ということで、「タグオフ」を防ぐには、チェックインの時に付ける印刷された手荷物タグ以外にも、荷物に名前が書いてあることが大切。
特に国際線に搭乗する時は、全世界の人が分かるように、アルファベット(ローマ字)で名前を書きましょう。時々、日本語でお名前や連絡先を書かれる方がいらっしゃいますが、海外の空港では日本語は読んでもらえないので、ご注意ください!
原因②システム不具合
例えばアジア線など、乗り継ぎの無い「短距離路線」でも、ときどき1便に10件ぐらいの未着が起きたりします。その原因の一つに、システム不具合があります。
皆様は、チェックインカウンターで預けた荷物がその後どうなるか、ご存知でしょうか?
荷物はベルトコンベアに乗って移動し、空港によっては「インライン・スクリーニング」と呼ばれる保安検査を通り、手荷物の仕分けをする場所(ソーティング場)に運ばれます。ソーティング場で職員が行先別に仕分けし、専用の車で飛行機まで運び、飛行機の貨物室に搭載します。
このベルトコンベアと保安検査を組み合わせたシステムは、非常に便利で、チェックインの時間を短縮させました。でも、システムに不具合が起きてしまう確率はゼロではないのです。
このシステムが止まってしまうと、チェックインカウンターからソーティング場に、タイムリーに荷物を送ることができなくなってしまいます。小規模な空港であれば、最悪の場合は職員が運ぶことも可能ですが、大空港の場合は、なかなか急にそういった対応は取れません。その場合は残念ながら、一部の荷物の搭載が間に合わない事態が起きてしまいます。
ただスタッフは、どの荷物が出発地で搭載できなかったか把握し、到着地空港に知らせることで、お客様に早く案内できるように準備しています。
原因③サイズが小さすぎる荷物
これはあまり知られていませんが、サイズが小さすぎる荷物も要注意です。搬送中に見落とされて、未着の原因になることがあります。
例えば、機内に持ち込もうとした液体物(化粧品など)があったとします。100ml以上の容器に入っていると、保安検査場ではじかれてしまうこと、ありますよね。更にその中身が高価な化粧品だったりすると、破棄するのはもったいないから、「預けなおそう」ということで、再度チェックインカウンターに戻ってくるお客様がいらっしゃいます。
追加でお預かりするのは問題ないのですが、ある時、お客様がスーツケース類を何も持っていなくて、ご自身でその辺にあった空き箱(10㎝ x 10㎝ぐらい)に化粧品を入れて、ガムテープで閉じて、その小さい箱をチェックインしたことがありました。
筆者がチェックイン担当だったら絶対に預からないサイズですが、その時のスタッフは、良かれと思って預かってしまったそうです。その荷物は結局、出発空港で搬送中に見落とされてしまい、未着となってしまいました。
このように、「液体物をうっかり手荷物に入れてしまったけど、スーツケースをすでに全部預けている場合」にどうすればいいでしょうか?筆者のおすすめの方法は、以下2点です。
- 空港内の売店で、100ml以下の「空きボトル」を購入して、その場で化粧品を詰め替えて、機内に持ち込む
- 空港内の売店で、チェックイン用の段ボールや鞄を購入して預ける
一番手っ取り早いのは、1のように持ち込みサイズの空きボトルを買ってきて、内容物だけ詰め替えることです。詰め替えたボトルは、機内に持ち込んでしまえばOK。
それが難しい場合、2のように段ボールや鞄を購入して預けるのがベターです。こうしてチェックインの時から気を付けていれば、到着地で「荷物が出てこない!」なんてことも減らせるのではないでしょうか。
原因④運航上の理由
他の未着理由も見てみましょう。これはレアケースですが、以前ヨーロッパ~東京の便で、出発地でコンテナ2台分(=約80個)の荷物を、まるっと乗せて来なかったことがあったりしました。
皆さん良いですか、もう一度言います、80個です!笑
未着は1便に1~2件あったとしても、大ごとです。それが「1便で未着80個」というのは後にも先にも聞いたことがありません。ここまでくると一種のバトルみたいな感じで、他のチームからも応援に駆けつけて、お客様の対応を行いました。
ここでコンテナについて少し補足しておきます。コンテナは、飛行機の貨物室に搭載するための大きな箱です。種類はたくさんあり、サイズや重さもバラバラですが、代表的なコンテナ「AKE」を例に挙げてみます。(AKBじゃないですよ?)
- サイズ:156×153×163㎝
- 重量:95㎏
上記のような大人の身長ぐらいの大きさのコンテナに、お客様の荷物を詰め込んでいき、コンテナごと飛行機の貨物室に載せて運びます。飛行機によっては、コンテナを使用せずに、そのまま荷物を貨物室に搭載するタイプも。
その便が、なぜコンテナごと乗せて来れなかったかというと、やむにやまれぬ事情があったみたいです。
飛行機は「重量が重すぎると離陸できない」という特性があるので、出発ギリギリまで他の搭載物との重量調整を行い、なるべく全部乗せられるように計算していたようです。そして結果的にそのコンテナ2台が乗せられなかったとのこと。
そして問題はその翌日。
「前日にコンテナ2台分(80個)を置いてきたから、今日は全部乗せて来るよね?」と思ったら何と、玉突き事故のような感じで、前日分の80個を乗せてきたものの、代わりにその日のお客様の荷物を80個ぐらい乗せて来なかったのです。笑
カンの良い方はもう察していらっしゃるかもしれませんが、こんな感じで毎日「玉突き事故」のように、前日分の荷物を載せる代わりにその日の荷物が押し出され、コンテナごと未着になる日々が、1週間ぐらい続きました。
正直言って日本の感覚では、なぜこんなことになるのか、ちょっとよく分かりません。笑 毎朝、「今日はコンテナ何台分の未着?」と確認する日々。いやーヨーロッパの空港はスケールが大きいですね!
対策①手荷物タグを読んでみよう
ここからは、お客様が搭乗する時に気を付けていきたい確認事項です。特に乗り継ぎがある時は、荷物のアクシデントを防ぐためにも、ご自身でもチェックイン時に確認しておきましょう。
まず、手荷物タグの見方について、サンプルで解説します!

上記は、左側が荷物に付ける部分、右側がお客様控え。便名と行き先、氏名、予約番号、手荷物の情報、タグ番号などが書いてあります。緑色部分が、最初に乗る便、赤い部分が、乗り継ぎ便の情報です。会社によってフォーマットは色々ですが、書いてある情報はだいたい一緒です。
飛行機の乗り継ぎがある「パリ経由マドリード行き」の場合、チェックインの時に上記のようなタグが発行されます。上記は乗り継ぎが1回だけですが、もし2回以上乗り継ぐ場合でも、常に「一番上が最終目的地」と覚えておけばOKです。
参考までに、アルファベットの暗号みたいなのが何を意味するかも書いておきます。航空会社の旅客系の部門では、空港や都市名、会社名などを2文字・3文字のコードで表します。(運航系の部門では、別の3文字・4文字のコードを使います)
- MAD=マドリード空港
- CDG=パリ・シャルルドゴール空港
- ZZ001=乗り継ぎ便名
- ZZ002=最初に乗る便名
- ZZ123456=タグ番号
右側の「お客様控え」を受け取ったら、一度目を通して、一番上の最終目的地がどこになっているかを見てみてください。
上記の場合は、「東京~パリ~マドリード」という旅程で、最終目的地マドリードで荷物を引き取るケース。ただ、ここで注意なのは、必ずしもタグの最終目的地で荷物を引き取るとは限らないということです。
例えば、「マドリード~東京~小松(日本の国内線乗り継ぎ)」の旅程の場合
- 手荷物タグは「マドリード~小松」を通しで発行できる(※格安航空会社を除く)
- 入国地は東京、入国審査は東京で行う
- 預けた荷物の通関も、東京で行う(東京に到着後、ターンテーブルで荷物を引き取って、再度国内線のチェックインカウンターで預けなおす)
このように、日本国内の乗り継ぎは、お客様の入国審査と手荷物の通関を同時に行います。乗り継ぎがある時は、「荷物の最終目的地」に加え、「どこで荷物を引き取るか、どこで入国審査を受けるのか」がポイントになってきます。そして、目的地や国によってそれぞれルールが異なるのです。
もし手荷物の通関地などのポイントをご自身で把握していない場合、最終目的地で「あれ?荷物が届いてない」なんてことにもなりかねません。チェックインカウンターでは、「荷物の最終目的地、どこで荷物を引き取るか、どこで入国審査を受けるか」を忘れずに確認しましょう。
実は、ここはスタッフにとっても若干ややこしいので、筆者が入社1年目ぐらいの時はあまり理解できておらず、よく隣の人に聞いてからタグを出してました。周りの人ごめんなさい。(T-T)
対策②「別切り航空券」に注意
これも乗り継ぎがある時の注意点です。全旅程の航空券を通しで購入せず、乗り継ぎ便の航空券を別々に買った時には注意が必要です。このような航空券は、「別切り航空券」と呼ばれています。
例)「東京~パリ~マドリード」という旅程の航空券を買う場合
- 「東京~パリ」の航空券は、航空会社のHPから直接購入した
- 「パリ~マドリード」の乗り継ぎ航空券は、現地に住む友人が安く手配してくれた
上記の場合、出発地(東京)のチェックインシステムに、「パリ~マドリード」の乗り継ぎ情報を入れないと、手荷物タグが最終目的地(マドリード)まで通しで発行されません。チェックインの時に、全旅程の航空券を見せて、最終目的地まで荷物を通しで預かってもらうことが必要です。
ということで、別切り航空券を持っている場合は、すべての乗り継ぎ情報を出発地で申告するのをお忘れなく。それを忘れてしまうと、荷物は途中の空港で止まってしまい、最終目的地で「荷物が無い!」なんてことになりかねません。
チェックインが終わって手荷物タグを受け取ったら、タグが最終目的地まで発行されているかを、自分の目でダブルチェックです。
対策③LCC利用時の注意
また、別切り航空券とも少し似ていますが、LCC(格安航空会社)を組み合わせて旅程を組む場合は、荷物がどの空港までチェックインされるかを必ず確認しましょう。
例えば乗り継ぎ便だけをLCCで購入した場合は、基本的に荷物は一度引き取って、チェックインカウンターで預けなおす必要があります。つまり、お客様は乗り継ぎする空港でいったん入国して、荷物を持って、改めてチェックインカウンターに行くことが必要になってきます。
なぜなら、LCCは「A空港からB空港への輸送」のみを行うことで運賃を下げていて、手荷物を通しで預かる仕事は、サービスに含まれていないからです。会社によっては、一定の条件を満たせば接続手荷物を通しで預かる有料サービスもありますので、利用会社に確認しましょう。
ということで、LCCの場合は、基本的に手荷物は通しでお預かりできないことが多いです。お客様が手荷物の有料サービスを申し込まない限りは、「A空港からB空港への輸送」のみを行います。こちらもご注意ください!
未着になっても困らない荷造りを
ここまで、未着が起きる原因と、気を付けたいポイントについて見てきました。航空会社がどんなに気を付けていても、未着はゼロにはできていないのが現実。万が一「自分の荷物がターンテーブルで出てこない!」となった時は、まずはパニックにならず、利用した航空会社のスタッフに申し出て、手続きをしてもらいましょう。
各航空会社では「ワールドトレーサー」という専用のシステムを使用して、世界中の空港から荷物の追跡ができるので、すぐに他の空港と連携を取ることが可能です。
また、よく考えてみると、ある空港で未着が発生している場合、他の空港で「未引取り手荷物」が発生してしまい、保管場所に困っているわけです。スタッフも「持ち主の分からない荷物は、早く引き取り手を見つけて解決したい」という思いで、手荷物事故の処理にあたっています。
未着が原因で大きなクレームになった事例
以前あったケースで、到着ロビーで1時間ぐらい係員にクレームされている方がいると聞き、責任者として対応しに行ったことがありました。その方はアジア系の中年女性で、不運にも荷物が未着になり、その中に高血圧の薬を入れていたそうです。
「私は高血圧だから、今すぐ薬が必要なのに!どうしてくれるの!!」と英語で叫んでいらっしゃいました。
詳細を聞くと、荷物はその時点で出発地で見つかっていて、すでに次の便で送る手配も行われている様子。それを英語で説明し、「お客様の荷物は見つかってます、今日の夜〇時に空港に着くので、ホテルに届けます。全部手配ができているので大丈夫ですよ~」となだめ、その間に係員に手続きをしてもらいました。
お客様が徐々に落ち着かれて大人しくなってきた頃に、言いづらいけど今後のために言っておかなきゃと思い、「次回からお薬のように大事なものは、スーツケースに入れないで、機内に持ち込んでくださいね」とさらっと言ったところ、お客様の動きが一瞬ぴたっと止まりました。お気に障られたかな?と思いましたが、どうやら分かってくれたようでした。(ほっ)
手荷物を預ける時の注意点
このようなこともあるので、手荷物を預ける時には、以下のような対策を取っておくと安心。
- 絶対に必要なもの(いつも飲んでいる薬、仕事の大事な書類、基礎化粧品など)は、なるべく手荷物に入れて機内に持ち込む
- 1日分の衣類を機内持ち込みのカバンにいれておく
上記のように、到着地で1-2日ぐらいスーツケースが無くても生活できるような荷造りをしておくと、万が一のことがあっても焦らずに済みますね!
ちなみにですが、たとえ航空会社スタッフの出張でも、未着の前では皆平等。出発時に預けたスーツケースが、なぜか未着になり、5日間の出張で荷物が届いたのは3日目、なんて話も聞いたことがあります。笑
まとめ
以上、飛行機に乗る時に預けた荷物が出てこない「未着」について、なぜそういった事態が起こるのかというその理由、そして未着を防ぐためのちょっとした工夫について書かせていただきました。
以下に、ポイントをもう一度まとめます。
- 預ける手荷物にネームタグを付けて、名前と連絡先を書いておく
- 乗り継ぎがある場合は、タグ上の最終目的地や通関地などを確認する
- 万が一、預けた荷物が未着になっても困らないよう、日常生活に必要なものは機内に持ち込む
また、「荷物はちゃんと届いたけど、スーツケースが破損してる!」という場合には、カバンは中身を守るもの?飛行機で荷物の破損を防ぐにはの記事を読んでみていただけると嬉しいです。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。
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