「ダイバート」とは?飛行機が目的地以外の空港に着陸する理由をスタッフ目線で解説 | mikolog

「ダイバート」とは?飛行機が目的地以外の空港に着陸する理由をスタッフ目線で解説

空港の仕事

飛行機に乗って目的地に向かっている時に、「悪天候のため、この飛行機は、別の空港に着陸します」なんて言われたら、びっくりしますよね。こうした「目的地以外の空港に着陸すること」を、ダイバートと呼びます。

でも、なぜ目的地以外の空港に着陸するようなことが起きるのでしょうか。そして、もし自分の乗った飛行機がダイバートしてしまったら、どうすればよいでしょうか。

この記事を書いている人は、長年航空業界にいて旅客や運航、マネジメントなどをやってきた人。仕事を通して「飛行機を安全に飛ばすにはどうすればよいか?」という判断に、日常的に関わってきました。

この記事を読めば、次のことが分かります。

  • ダイバートとは何か
  • なぜダイバートが起きるのか
  • ダイバートした後の運航はどうなるのか
  • 自分の乗った飛行機がダイバートしてしまったときに確認したいこと
  • 実は、全てのフライトで「プランB」を考えている

今回はダイバートについて、徹底的に考察してみます。早速読んでみましょう!

ダイバートとは

そもそも「ダイバート」という言葉は、どこから来ているのでしょうか。元々は、英語の”divert”という単語が由来になっています。

  • divert(動詞)=(方向を)転換する、~を他にそらす、進路を変える

上記のように、”divert”には「方向を転換する、進路を変える」というような意味があります。

航空機の運航では、目的地を変更して別の空港に着陸する場合に使われています。場合によっては、”diversion”(ダイバージョン)という名詞を使うことも。

よくある勘違い話ですが、”dive out”(ダイブ・アウト)ではないので、ご注意ください。(筆者は以前、「ダイブ・アウト」だと勘違いしてました。笑)

なぜダイバートが起きるのか

さて、ダイバートが「目的地を変更して別の空港に着陸すること」という意味なのは、何となく分かります。でも飛行機の運航では、なぜダイバートのような「目的地変更」が起きるのでしょうか?

具体的な体験談を交えて、ご紹介します。

①燃料が少なくなった場合

まずは、「燃料が少なくなってしまった場合」が考えられます。

これは、「色々な理由で目的地まで燃料が持たない可能性が出てきてしまい、安全を考えて途中の空港にダイバートして給油する」という場合です。

燃料が少なくなる事情は、ケースバイケースで色々ありますが、筆者が実際に遭遇した例としては、アメリカ線の「偏西風」が理由だったことがありました。

偏西風と飛行機のイメージ図

上記のように、太平洋上には西から東に向かって、「偏西風」という風が吹いてます。偏西風は、いわば「すごく強い風」だと思ってください。(図はだいたいのイメージ)

そして上の図を見ていただく通り、アメリカ→日本に飛ぶ飛行機の場合、絶えず「向かい風」の状態です。つまり、「すごく強い風に向かって、長時間飛び続ける」ということになります。

例えば、自分が自転車を漕いでいる所を想像してみてください。向かい風が強いと、それだけ力いっぱいペダルを漕がないと、前に進めないですよね。飛行機も似た部分があります。向かい風が強すぎると、それだけ燃料を使ってしまうのです。

こうして長時間にわたって、偏西風の影響をまともに受け続けたため、予想以上に燃料を消費してしまったのでしょう、目的地(東京)まで行けなくなった飛行機が、千歳空港にダイバートして給油しているのを目撃しました。給油後は、すぐに目的地に向かって出発したようです。

しかし、燃料が足らなくなるというのは、運航者にとっては「痛恨の極み」だったのではないでしょうか。。もし自分が担当者だったらと想像すると、胸が痛いです。( ;∀;)

ということで、気象状況などの理由で、想定以上に燃料を消費してしまい、ダイバートすることがあります。

②お客様対応:急病人や、機内で暴れたお客様を降ろす場合など

次に、お客様の対応のために、途中の空港にダイバートすることもあります。例えば、急病人が出た場合や、機内で暴れたお客様を降ろす場合などがこれにあたります。

急病人

飛行機は密閉された空間で、更に高度3万フィート付近を飛んでいます。急病人が出てしまい、通常なら救急車を呼びたいような場合には、機内で解決するか、急病人を降ろすか、のどちらかの選択肢しかなくなってきます。

会社によっては、Medlinkなど、遠隔の医療サポートを受けている場合もあります。Medlinkというのは、アメリカのMedAire社が航空会社に提供している医療サポート。空の上にいても、24時間体制で専門家のアドバイスを受けることが可能。

そして機内だけでなく、地上でもMedlinkに医療のアドバイスをもらったり、Medlinkと連携して機内の対応を引き継ぐ場合もありました。筆者も利用させていただいていましたが、医療のプロと直接話すことができるので、とても頼もしいサポートです。

こうしたプロのアドバイスも受けつつ、最終的に機内から降ろした方が安全だと判断した場合は、途中の空港にダイバートし、急病人を降ろすことがあります。

この記事を書くにあたり、急病人のダイバートのニュースを検索してみましたが、オンラインで出てくる記事がほとんど見つかりませんでした。あまりニュースに取り上げられなくても、機内で急病人が発生し、途中の空港にダイバートしている飛行機は時々見かけます。

機内で暴れたお客様

一方、ニュース性があり話題になった件としては、「機内で暴れたお客様」でしょうか。「マスク拒否」の事件などは連日にわたってニュースになっていたので、印象に残っている方もいるかもしれません。

こういった「機内で暴れたお客様」は、ルールに従わないお客様とみなされ、安全運航を守るために飛行機から降ろされてしまう場合があります。

「えっ、お客様は神様じゃないの?」と思った方は、「アンルーリー」とは?マスク拒否などで、旅客が飛行機から降ろされるニュースをスタッフ目線で解説、という記事で詳しく書いていますので、こちらも読んでみてください。

③目的地空港の滑走路閉鎖:カフュー、地震など

また、目的地空港の滑走路が、何らかの事情で閉鎖してしまうケースもあります。これには、地震や事故、「カフュー」などによる滑走路閉鎖があります。

地震

日本は地震の多い国なので、程度の大小はあれ、一年を通してどこかで地震が起きています。

例えば震度4程度の規模の地震が起きた場合、滑走路に異常が無いか、今後も問題なく使用できるかどうか、点検が必要になってきます。そういった点検のために一時的に滑走路が閉鎖します。

ちょうどそのタイミングで進入しようとしていた飛行機がある場合、滑走路の点検状況や残燃料によっては、滑走路がまたオープンするまで上空で待機できない場合があります。

そんな場合は、近郊の空港にダイバートすることがあります。

カフュー

皆さんは、「カフュー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

  • curfew(名詞)=夜間外出禁止令、門限などの意味

上記の通り、カフューとは、元々は「夜間外出禁止令」という意味の語。

飛行機の運航では、「滑走路の運用制限」のような場面でよく使われます。カフューを持つ空港は、日本国内に多々あります。

例えば、成田空港は「アジアでも有数の国際空港なのに、カフューがある」ということでも知られています。深夜から早朝にかけて、基本的には滑走路を閉鎖する運用を取っているのです。

そんなカフューのある空港が目的地だった場合、何らかの事情で飛行機が門限に遅れてしまったら、目的地空港に着陸できず、ダイバートするしかない場合があります。

「何らかの事情」で飛行機が遅れるって、具体的にどういう場合があるの?と思われた方、なぜ飛行機は遅延するの?その理由と、定時率の考え方を空港スタッフ目線で徹底解説、という記事に全てを書いています。こちらもお読みいただけると嬉しいです!

④目的地空港の悪天候:視界不良など

最後に、気象状況の悪化などで、目的地に降りられなくなってしまう場合を見てみます。例えば視界不良や、強風などで着陸できなくなってしまい、他空港にダイバートすることがあります。

空港付近の天気予報(風向きや風の強さ、視程といった気象状況)はすべて数値化されて、「飛行場予報」として公式に発表されています。

最近では、世界中の飛行場予報がアプリで見ることもできちゃいます。筆者はAeroWeatherというアプリを何年も使ってますが、普通の天気予報としても見れるので、すごく便利ですよ!

こうした専門の天気の数値を参考にしつつ、飛行機は空港に進入します。状況によって「無理に着陸しない方が安全」と判断した場合は、着陸をやり直しします。

そうして何回か着陸を試みて、2、3回目で降りられる場合もあれば、状況によっては全く天気が良くならないこともあります。

運航者としては、「残りの燃料がどれぐらいか」という点も計算しながら、最終的に「絶対安全に着陸できる空港」を選んで、そこまで飛んでいって、飛行機を降ろす必要があります。一度離陸してしまったら最後、飛行機の燃料はどんどん減っていくのです。

その「絶対安全に着陸できる空港」が目的地以外の空港だった場合、その時は「ダイバートが適切」という判断になります。

以上、「なぜダイバートが起きるのか」について、①~④まで見てきました。上記はよくある代表的な例ですので、もちろん他にも色々な事情でダイバートすることがあります。

ダイバートした後の運航はどうなるのか

ダイバートした後は、飛行機はどうなるのでしょうか。

これについては、一言で言えば「ケース・バイ・ケース」です。なぜなら上記で見てきた通り、ダイバートの理由も状況も様々だからです。

とはいえ、大まかな考え方を大きく2つに分けて、「①目的地空港に向けて再出発する場合」と、「②ダイバート先で運航を終了する場合」で見てみます。

①目的地空港に向けて再出発する場合

まずは、ダイバート先の空港に一旦着陸して、給油したり急病人を降ろした後、再度目的地空港に向けて出発する場合。

これについては、記事の最初の方でご紹介した、「燃料が少なくなった場合」の例をみてみます。

アメリカ→東京に行く飛行機で、偏西風の影響をまともに受けてしまい目的地まで燃料がもたなくなり、千歳空港にダイバートしたお話をご紹介しました。この場合は、千歳で給油した後、すぐに目的地空港に向けて出発しています。

このように、ダイバート先で体制を整え、なるべく早く再出発する場合も多いです。ただし、時と場合によっては、出発時刻が翌日になることもあります。

翌日になる理由の一つは、例の「カフュー」などが考えられます。カフューにかかるような深夜帯だった場合は、ダイバート先で一泊することも出てきますよね。

ただ、もし筆者が運航者だったら、翌日出発を回避するために最大限の手を打つと思います。

路線にもよりますが、仮に「ダイバートしたうえで、お客様の宿泊費用を全部カバーする」となると、航空券のつつましい売り上げなんて、全部とんじゃってもおかしくないからです…。

②ダイバート先で運航を終了する場合

次に、ダイバート先の空港で運航が終了する場合もあります。

これは、「目的地の近郊空港にダイバートして、何らかの理由で目的地空港まで行けなくなった場合」などに起こります。

例えば成田行きだった飛行機が、深夜のカフューにかかってしまい、近郊の羽田にダイバートしたとします。時と場合によっては、そのまま運航を終了し、羽田でお客様に降機してもらうこともあり得ます。

飛行機に乗り慣れていないと、ちょっとびっくりするシチュエーションかもしれませんね。

ここで、自分の乗った飛行機がダイバート先で運航が終了するなど、いつもと違う運航にあたってしまった時に、確認しておきたい点を整理しておきます。

自分の乗った飛行機がダイバートしてしまったときに確認したい部分

自分の乗った飛行機がダイバートしてしまったとき、お客様として気になるのは、「こういった場合に、どこまで金銭的な補償がされるのか?」ではないでしょうか。でもこれは状況によって変わってくるので、その都度、航空会社に確認するのが確実です。

また「どの程度の手厚いケアが、ダイバート先で受けられるか」については、その航空会社のスタッフがダイバート先に常駐しているかどうか、によっても変わってくるかもしれません。

いずれにせよ、こういった場合のポイントとしては、「航空会社がどこまで費用をカバーしてくれるのか」を確認して、それにかかわる必要な情報を取っておくことです。

空港にはダイバート便を担当するスタッフが必ずいますから、空港を離れる前に、次のような情報は手に入れておきましょう。

  • 正式なコンタクト先
  • 航空会社がどこまで費用をカバーしてくれるのか
  • 補償がある場合は、費用の精算方法
  • ダイバートの「証明書」の発行場所、など

正式なコンタクト先は、一般的な「予約センター」の場合もあれば、会社によって専用窓口がある場合も。

そして仮に、地上交通費用の精算が発生する場合は、精算方法や必要書類も確認しておきましょう。

4番目の「証明書」とは、通常と異なる運航をした場合に航空会社が発行する証明書です。社名、便名、日付や、ダイバートした理由などが入った文書を発行してもらえる場合は、忘れずにもらっておきましょう。

ちなみに「証明書」は英語で言うと”certificate”です。「ダイバート証明書」なら、”Diversion certificate”といえば通じると思います。

最近はオンラインで証明書を発行している会社もあれば、紙に印刷して「その場で手渡し」の会社もあるようです。いずれにせよ、「証明書がもらえるかどうか、そしてどこで入手できるのか」という部分も、空港を離れる前に確認しておきましょう。

実は全てのフライトで「プランB」を考えている

ところで、こういったダイバートの判断は、誰が行っているかご存知でしょうか。

これは、飛行機に乗っている乗員はもちろんですが、地上の運航者とも協議した上で決定されています。さらに、飛行機が飛んでいる上空での交通整理をしている「管制」などの関係各所とも連携しつつ、調整されています。

そして全てのフライトでは、「代替空港」というのを離陸前に選定しています。

ここでいう「代替空港」というのは、「目的地空港に降りられなかった場合に、着陸する空港」という意味。いわば、ダイバート先の空港、ちょっとカッコいい感じで言うと「プランB」です。

例えば、次のような感じ。

  • 出発地空港:東京
  • 目的地空港:ロサンゼルス
  • 代替空港:オンタリオ、ラスベガス、など

上記のように、ロサンゼルス行きの飛行機でも、オンタリオなど近郊の空港の情報も調べておき、何かあった時に行けるように準備しています。

飛行機は万が一に備えて、代替空港まで飛べるだけの燃料を出発前に計算し、十分な燃料を搭載した上で、はじめて離陸しているのです。これはどの会社でも、国際線・国内線とわず全便でやってます。

さらに、天気が悪い時など、代替空港が1か所では不安な場合は、代替空港を2か所選定することもよくあります。代替空港2か所のうち、どちらか遠い方の空港まで行けるだけの燃料を搭載し、その飛行計画を管制機関にも届け出た上で、やっと出発します。

もっとややこしい話をすると、目的地付近だけでなく、道中の空港についてもチェックしていたりします。(どんだけチェックする気やー!笑)

ということで、飛行機は常に「万が一」を考えながら、色々な状況に対応できるように、あらゆる代替手段を考えつつ飛んでいます。

自分の乗った飛行機がダイバートしてしまうと、「ちょっと、大丈夫なの!?」と思われる方も多いとは思います。ただ運航側としては、日頃から「プランB」、あるいは「プランC」を常に考えつつ、その中で最善の策を取っていることを、何となく知っていただけたら嬉しいです。

まとめ

以上、飛行機に乗っていて時々起きるダイバートについて、なぜ目的地以外の空港に着陸することが起きるのか?という理由をはじめ、下記の点について詳しく書いてみました。

  • ダイバートとは何か
  • なぜダイバートが起きるのか
  • ダイバートした後の運航はどうなるのか
  • 自分の乗った飛行機がダイバートしてしまったときに確認したいこと
  • 実は、全てのフライトで「プランB」を考えている

自分の乗った飛行機がダイバートしてしまうと、びっくりして不安になっちゃいますよね。「この飛行機は、○○空港に降りられない場合は、引き返す恐れがあります」みたいなアナウンスだけでもドキッとします。

今回の記事で見てきた通り、「安全を守る手段」としてダイバートすることがあります。また、目的地以外の空港についても常に目を光らせていて、いつも「プランB」や「プランC」を考えていたりします。

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました!

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